小鹿野歌舞伎で80年ぶり?!春日町民、歌舞伎の舞台へ

秩父郡の小鹿野町(おがのまち)で、最も賑やかなお祭りの一つである「小鹿神社春祭り」が2025年も開催される。4月18日(金)と19日(土)の2日間にわたって様々なプログラムが予定されているが、中でも注目したいのは歌舞伎の上演である。

というのも「春日町」と呼ばれる地区の屋台歌舞伎では、屋台を組み立てた町民らがそのまま歌舞伎の演者も行うというのがもともとの習わしだったものの、長らく「建てる」と「演じる」の分業が続いていた。それが今年は、なんと約80年ぶりに同じ町民によって行われる。

200年以上続く小鹿野歌舞伎の保存・継続にとって重要な今回の上演、その企画・発起人となり自身も歌舞伎役者として出演するのが、春日町青年部長、春日若連(わかれん)の会長を務める八宮悟(はちみや さとる)さん。小鹿野こいしで有名な、去年創業100周年を迎えた老舗菓子屋「八宮松雪堂(しょうせつどう)」の3代目だ。

今回は春祭り本番へ向けて取り組んでいる歌舞伎の練習場にお邪魔し、八宮さんに歌舞伎出演を決めた経緯や、その心境についてお話をうかがった。

【解説】
文中に出てくる「春日町(かすがちょう)」とは小鹿野町における行政区分で、「小鹿野8区」ともいう。「小鹿野町誌」によると、かつて上町・中町・下町とあったが明治5年(1872年)に中町と下町が「春日町」に改まったとされており、その通称が今現在も町民に広く浸透している。

春日町には議決・執行機関である町会とは別に、様々な機能を持った地域集団が存在しており、その中で主に祭の興行を主管しているのが青年部である。

春日若連会長 八宮悟さん

練習お疲れさまでした。今日で何回目の練習だったんですか?

ちょうど建国記念日に始まって、練習は週に1回。今日で5回目です。

本番が1ヶ月後ぐらいなので折り返しぐらいですね。今のところの仕上がり具合はいかがでしょうか?

動きが入るとセリフが飛ぶ。クセを出そうとするとセリフが飛ぶ。大変ですね(笑)。

八宮さんが演じるのはどんな役ですか?

今回の演目は「白浪五人男」といって、5人の盗賊を主人公にした話で、そのリーダーの日本駄右衛門(にっぽんだえもん)を演じます。ちょうど自分が春日若連の会長を務めているので、ポジション的にもそこがいいだろうって話で。

みなさんならではの、オリジナルなセリフが印象的でした。

師匠のアドバイスで入れた方がいいんじゃないかって。「じゃあ甘えます」って入れさせてもらいました。

小鹿野歌舞伎保存会から指導に来ている柴﨑好一師匠

やっぱりみんな知ってる地元の人が舞台に上がると、「どこどこさん家の誰それが舞台に上がる」ってなるから、見に来てくれるじゃないですか。歌舞伎好き以外の人も。だから、舞台は作ってきたものの演じてはこなかった地元の人に演じてもらうことで、もっと地元を盛り上げたいっていうのが今回の目的ですね。

今回、役者になってるメンバーはどう選ばれたんですか?

屋台を曳きまわすときに、反木(そりぎ)という屋台の上でみんなを鼓舞する役がいて、今年の反木から2人、去年の反木から2人、加えて若い衆が屋台を動かすときに統率する反木頭、あとは青年部長の自分。何かしら役を過去にやった人と、今年やる人に声をかけています。

5人の盗賊役は演技に袖を持つ仕草などがあるため、練習は浴衣を着て行う

屋台の方とも役割が連動してるんですね。

出演をお願いするのに、ちゃんとした理由付けがあった方が断りづらいだろうと思って(笑)。

青年部でない人にも誰かしら参加してほしくて、声をかけたのが5人の盗賊を追いかける「捕り手」の1人。あとは青年部長経験者の一人で、在任時がコロナ禍であまり色々とできなかったっていう方が、五穀豊穣や天下泰平を祈願する舞である「三番叟(さんばそう)」に挑戦します。

春日町による上演が復活ってことで、なるべく春日町の人たちの手で上演することを掲げているんですよ。笛や太鼓の演奏についても、春日郷囃会(かすがきょうそうかい)の方々が参加してくれました。なので指導をつけてくれる小鹿野歌舞伎保存会から来た師匠、そして三味線、それ以外は本当に地元の春日町のメンバーで構成された歌舞伎なんです。

今回、出演側として歌舞伎に挑戦することになった背景を教えてください。

何年か前から「せっかく春日町には歌舞伎という文化があるんだから、自分たちでもやりたいよね」って話が出ては頓挫してっていうのを繰り返してたんです。今回、自分に青年部長の役目が回ってきたから、「やろうよ」ってあらためて言い出しました。

人がどんどん減っていってしまって人数が揃わなくなると、できなくなっちゃうじゃないですか。今回少しでも何かしらアピールになって、人がちょっとでも集まってきてくれるようになれば、小鹿野歌舞伎の文化が継承されていくのかなと。200年以上の歴史が途絶えるのは、やっぱり勿体ない。

あとは自分たちの町に歌舞伎屋台があるのに、出演は外にお願いしているっていうのも、格好悪いと思ってましたからね。テレビなんかの取材が来たときに「歌舞伎やってるんですか?」って聞かれて「やってません」って答えるのは癪でした。

今度はもっと歌舞伎に向き合ってるって言えるから。もし違う取材が来たらね。

屋台を建てる地元の人が演じる、というのは約80年ぶりだとか。

正確な記録が残っているわけではないんだけれど、平成28年(2016年)に100歳になられた石川竹次さんという方がいて、石川さんの若い頃の写真や、ご本人の伝承から約80年ぶりだと言われています。

かなり久しぶりなのは間違いないので、地元が盛り上がってくれれば嬉しいです。

そのほかにも新しい取り組みがあって、本来は屋台を曳けるのは町民か近しい人のみだったんだけれど、今年は町外からも曳き手を募集しています。法被(はっぴ)の貸し出しもあるので、ぜひ色んな方に祭を盛り上げに来てもらえると嬉しいですね。

女性も参加可能なんですか?

もちろん大丈夫です。いっぱい来てもらえればと。

春祭りでは、2台の屋台が出ると聞きました。

春日町と上町で2台。どちらの屋台にも歌舞伎のできる舞台があるので、18日(金)の同じ時間に上演予定です。上町の演目は「義経千本桜」と聞いています。

同じ時間にやるんですね、せっかくだからどちらも観たいです。

そうなんですよ。こっちも上町の方がどういう歌舞伎に仕上げてきたのか観たいし。だから今回は両方とも撮影して、YouTubeにアップしようかと。

その昔は舞台を背中合わせに設置して一晩中上演しあってたんだそうですよ。今は道路規制の問題でそれができなくなっちゃったから、同じ時間に上演して屋台をしまわなきゃいけないんだけどね。

八宮さんは、生まれも育ちも小鹿野町ですか?

そうそう。春日町生まれ、春日町育ち。

小鹿野で育ったことで、祭に対する気持ちはどのように育まれましたか?

祭りは生まれたときからあるものだし、やっぱり太鼓の音を聞くとワクワクするように育ちました。お酒も賑やかなことも好きな性格だったもんで、そうやって今に至っちゃった感じです。大人になって、より深く祭に関われるようになりましたし。

今回の春祭りが終わると青年部長の任期も終わりです。これからは若い衆が何かやりたいって言えばサポートしたいですし、春日町民による歌舞伎もせっかく始まったので、できれば今後も続いていってほしいなと思います。

歌舞伎を実際に始めてみて、何か心境の変化はありましたか?

まだやることもたくさん残ってるんで、その辺は終わってからじゃないですかね。

役者としてはもちろんですけど、準備の方も想像以上に大変で。初めてやることばかりだから、何にも分かっていないし、何が足りてないかも分かっていないんですよ。だからまだ一息ついたり、感慨深く感じられるような精神状態じゃないんです。終わってみんなで酒飲むときにようやく「良かったね」ってなるんじゃないかな。

 

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