「秩父きゅうり」の守屋農園に学ぶ、小鹿野の土地を活かした「質」の農業戦略

(写真)左:現園主の守屋聡さん、右:先代の守屋善雄さん

秩父地方で有名な、埼玉県産ブランド野菜といえば「秩父きゅうり」です。1940年代から小鹿野町で生産がはじまり、当初は「小鹿野きゅうり」と呼ばれていました。今回は、そんな秩父きゅうりを主力商品として、トマト・なす・サツマイモなどさまざまな野菜を生産している般若(はんにゃ)地区の合同会社 守屋農園さんにお話を伺いました。守屋農園さんは、町内では珍しい法人化された農業事業者で、法人化のメリットや小鹿野町における農業の実態など、幅広くお話を伺いました。

POINT
・秩父という盆地で「農業」を営むには、「量」より「質」という企業戦略
・小鹿野町の新規就農者へのサポート「明日の農業担い手育成塾」
・設備投資の面から見える、農家の「計画」の重要性

「美味しいから」と市場から提案、盆地の寒暖差が生む秩父きゅうり

「秩父きゅうり」のブランド化は、どのようなきっかけで始まったのですか?

善雄さん:
まず、創業者である私の父が昭和40年代(1965年~)に養蚕の転換作物としてきゅうりを栽培し始めて、単棟ハウスを建てました。当時、多い時にはこのあたりでも80件くらいのきゅうり農家がいて、みんなで一生懸命に売り込みをしてくれていたんです。そうした努力が実り、出荷先の市場で「美味しい、質が高い」と評判になって、市場側から逆に提案をいただいたのがブランド化のきっかけになります。秩父は盆地で寒暖差がありますから、これが美味しいきゅうりを作るためには、なかなか良い条件になっています。

聡さん:例えば深谷のような平坦で広大な地域だと、何ヘクタールも広く使って大事業化していますよね。あのスタイルは、小鹿野では厳しいんですよ。土地的に難しい。広い土地があると量で勝負できるから、そういった農家さんは実がたくさんなる品種を使います。一方で、小鹿野の地域特性としてはそこまで栽培スペースを広げられないので、「美味しさ(質)」を追求した方が企業戦略としてはいい。寒暖差があって狭い盆地だからこそ、味で勝負する。ただ、ある程度は量も出さなきゃいけないから、そこはバランスが難しいところですけどね。

計画性のある設備投資と賢い補助金活用、「持続可能な農」を確立するヒント

小鹿野町では、農業の担い手を育成するため、「明日の農業担い手育成塾」を設置しています。守屋さんは、この施策の指導農家もされていますね。

善雄さん: 小鹿野町には3軒の指導農家がいて、うちと黒澤農園さんと新井さんち。ここでは、ワンシーズン一緒にやって勉強してもらい、そのあとは近くの場所を借りて自分で挑戦してみてもらいます。いきなり遠くで独立するのではなくて、しばらくは近くで見守る期間が必要なんです。

うちの従業員は、きゅうり栽培の仕事を一から十まで全部やっています。小鹿野は深谷みたいに大きくない産地だから、例えば、自動選果機のような機械が入っていない。だから、みんな自分の目で見て選果する。それが不利なようでいて、すごく良い意味で「目を肥やして」くれているんですよ。全員が選果のやり方を覚えられる。手作業で質を求める農業は、働く時間も長くなるし作業も多くて大変だけど、最初から自動化に頼らず、すべての基本を覚えるには小鹿野はいいところだと思いますよ。

小鹿野町の実態として、法人化されている農家さんはそこまで多くないのでしょうか?

善雄さん:そうですね、ほとんどの農家さんが個人事業で運営していると思います。法人化しているのは、このあたりだとうちと黒澤農園さんくらいじゃないかな。ここの法人化が2016年で、ちょうど農林振興センター(※1)の指導のなかで「農業法人を増やしましょう」という動きがあった時期だったんです。あとは、会社に勤めていた息子がちょうど戻ってきたというタイミングでもあったし。法人成りしないと、もらえない補助金があったのも理由の一つでした。

(※1)農林振興センター:都道府県が設置する農林水産業の総合的な地域機関。地域の農業や林業の振興、生産者への技術指導、農村の基盤整備、鳥獣害対策などを担う行政の窓口です。

小鹿野で農業を営むうえで、法人化するメリットを教えてください。

聡さん:
農業をやる大変さは、個人でも法人でも基本はあまり変わりません。ただ、法人化すれば働き手を集めやすくなるので、いくらか休みを取ることができます。個人の時は休みはなかったけれど、逆に言えばサボるのも諦めるのも自己責任でした。今は、比較的休みを取りやすくなっています。一方で、法人は会社にマイナスが出ないように考えなくちゃいけない。

あと、自治体やJA・農林振興センターとの連携がしやすくなるのは大きな利点ですね。うちの苗の状況を見に来てくれたり、周辺の同業者さんの情報や業界の最新情報などをシェアしてくれたり、とても助かっています。社員の保険など法人化による新たな出費がいろいろと発生するのは事実ですけど、個人的にはメリットの方が大きいと考えています。

人気商品になれば売上が何倍にもなるような工業製品と比較すると、農業製品の価格変動は緩やかなイメージです。地道にコツコツやっていく考え方が良いのでしょうか。

聡さん:
でも、月単位で見ると市場の相場で農作物の価格が2倍や3倍になることは結構あるんですよ。当然、不作だと売り上げは減りますけど。うちが普段から取引している市場では、10日間の売上が、次の10日間が経った時に振り込まれる仕組みなので、キャッシュフローのサイクルが短く「今週は無駄遣いできないな」といった資金繰りの判断がしやすいです。このルールは市場によって異なるので、市場に合わせた運営方法を自社で確立していく必要がありますね。

そういった資金繰りについても計画をつくるのが重要そうです。

聡さん:そうですね。例えばハウスひとつにしたって、建てるだけなら誰でも建てることができますが、いきなり何千万円もかけて大きいハウスを建てて農業を始めるのは本当に大変なことです。借金を返し終わるのが、何十年も先になることもあります。借金を返すために働くわけじゃない、収益を上げるためにやるんだから、仮に2〜3年で会社を畳んでしまったら、借金しか残らないですからね。もし新規就農するなら、栽培のノウハウだけでなく、補助金等をうまく活用する知識もあった方が良いのは間違いないですね。

設備投資のキャッシュフローがネックになるんですね。

善雄さん: ハウスを新設するなど大きな設備投資をする際には、まずは県や町に話を通して、金融機関などから借り入れをして、毎年10分の1、20分の1ずつ返していく。売上から毎年100万、200万を10年、15年かけて返し切るわけです。私が始めた頃は10アール(※2)のハウスで1,000万〜2,000万円くらいだったけれど、今はスマート農業の最先端設備が入っていて、値段が倍以上するものもあります。大変な値段です。一度にたくさんのハウスを建てるといった大規模な設備投資は難しいのですが、息子の代になってから、何年かに一度、実費の半額いただける補助金を申請してもらって、ハウスの増設やミストや吸水設備などの補強をしてきました。

(※2)1アールは100㎡、10アールは1,000㎡

仕掛けながらもブレない。小鹿野町で挑む、土地に根差したこれからの農園スタイル

守屋農園さんには、ご家族のほかにも社員さんがいるとうかがいました。

聡さん:家族と社員が4人、毎営業日来てくれるパートさんが3人。この人数で計で90アール(=9,000㎡)の面積を見ないといけないから大変です。すごい出荷量になるんですよ。先日も1日で500箱以上のきゅうりを出荷しました。

善雄さん: 500箱を超えるのは、2日分の出荷になるからなんですけどね。ハイシーズンですと、多い時には1日で280箱くらいの出荷になります。天気の良し悪しでも結構変わりますが、休日の翌日は2日分の出荷になるので、500箱を超えてくるというわけです。

メインの出荷先はJA(農協)さんですか?

善雄さん: そうですね、大体8割くらいがJAさんで、あとは直接契約のあるスーパーマーケットになります。ただ、スーパーの店頭は、委託販売のような形になるので売れ残った時には野菜が返ってくるリスクがあるんです。等級のつけられないものについては、無人販売所で販売もしています。

JAさんの場合は、どんなに出荷しても野菜が返ってくることはありません。価格を決める機能を持つのは市場ですが、多少安価がついたとしても売り切ってしまった方が、ロスは出ないしお金にもなるし企業としては安定します。販路を持っているのであれば、自分で価格をつけて売るスタイルも面白いと思いますよ。スタッフを別で雇うなど、そこまで事業を伸ばせるかどうかという話ですよね。

守屋農園さんでは、規格外のきゅうりを活用した「かっぱのサイダー」も提供されていますね。

聡さん:きゅうりがバナナくらい曲がってしまうと、もうJAには出せない「規格外」になってしまいます。もったいないというのはもちろん、県からの提案や自社の宣伝も兼ねて、6次産業化の取り組みとして始めました。でも、きゅうりはトマトやトウモロコシみたいにカラフルにはならないし甘さもそこまでないから、商品化がなかなか難しいです。

きゅうり以外の作物を作ることもあるのですか?

聡さん:
最近、離農された方のハウス(3棟半)を地主さんから「使ってほしい」と頼まれて、今は試しにトマトやサツマイモなどを植えています。他にも借りたハウスで、春先にトウモロコシを植えていますよ。全部をきゅうりにしてしまうと今の人数だとなかなか手が回らないので、きゅうりとは収穫時期が少しずれる作物を栽培することで、全体の出荷量を増やすという工夫もしています。

ただ、守屋農園の方針としては、やっぱり「美味しい質の高いきゅうりをしっかり作っていこう」という基本姿勢を守ることです。盆地ならではのきゅうり栽培や6次産業への取り組みなど、場所と時代に最適化しながらも「美味しいきゅうり作り」という原点は忘れずに、これからも続けていければと思います。

ありがとうございました。


小鹿野町の「お試し移住住宅」は、リアルな暮らしを体験いただけるよう、町民とのコミュニケーションや保育施設の見学、農作業体験などのアクティビティも選択できるコーディネーター伴走型となっています。2泊~最長9泊が可能で、利用料は無料(2026年7月現在)です。移住のご検討にあたっての情報収集として、ぜひお気軽にご利用ください。

▼関連リンク
「明日の農業担い手育成塾」
https://ogano-iju.com/asunonougyou/

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