文:小鹿野町地域おこし協力隊 芦田央
「二拠点生活にチャレンジしたい方向けに、実体験をもとにした記事を書いてほしい」と頼まれたものの、これがなかなか難しい。夏は北海道で冬は沖縄という方もいるだろうし、軽井沢の別荘で避暑する方もいれば、都心に住みながら地方で週末農業を楽しむなど、その二拠点スタイルは様々だからだ。この記事を読んでいる方は、どのような二拠点生活を望んでいるのだろうか。
私はというと、東京と秩父郡の小鹿野町(おがのまち)に拠点があり、それぞれで家を賃貸し、どちらの地でも仕事をしていて、1週間ほど滞在すると、もう一方へマイカーで移動する、そんなライフスタイルである。この生活を始めてちょうど1年が経った。それなりにノウハウがたまってきた気がするので、衣・食・住・足(移動手段)の4つのテーマでご紹介していきたい。
正直に言うとかなり細かいことを書かせていただいたので、全部が全部はご参考にならないと思う。しかし、ディテールは参考にならなくとも、私が直面した課題は、読者のみなさんにとっても我が身に起こり得ることとして検討の起点になると考えている。ぜひお気軽に、ご一読いただきたい。
※2026年1月10日(土)には、有楽町のふるさと回帰支援センターとオンライン(Zoom)のハイブリッドで「二拠点生活セミナー」を開催予定

足(移動手段):車があるのに電車に乗るという贅沢

普通であれば、電車に乗れば良いのに車に乗るのが贅沢だ。一体どういうことなのか、その説明の前に「小鹿野町(おがのまち)」のことをご存知ない方も多いかもしれないので、まずは地域的な特性から説明していきたい。
小鹿野町は、埼玉県の秩父郡に属し、秩父市街地から車で30分ほど群馬県側に入ったあたりに位置する中山間地域である。町内に電車の駅はなく、車以外の方法で訪れるには西武秩父駅からバスに乗る。車であれば、関越自動車道の花園ICから、皆野寄居バイパスを通って約35分だ。
私の都内の拠点は立川市にあり、高速と下道では約10分しか変わらないので、普段は節約のために下道を通って往復している。多摩川沿いの国道29号線を拝島まで行き、横田基地の横を通って飯能市まで抜け、バイカーに人気の299号線に入るルートだ。総距離は約73km。朝と日中の混んでいる時間帯だと、片道約2時間30分の行程である。夜の空いている時間であれば、1時間50分くらいで済むこともある。この40分の差は大きい。そのため夜の運転が増えがちで、BGMはフィッシュマンズになりがちだ。


二拠点生活の自己管理において、向こう1か月分くらいは”東京にいるのか” or “小鹿野にいるのか”というスケジュールを常に立てているが、小鹿野での用事が小鹿野にいる間に、東京での用事が東京にいる間に、忙しいとこれがなかなかハマらない。どうしても参加しなければならない用事の場合は、小鹿野にいながら、日帰りや1泊2日で東京に行って戻ってくる(逆もまた然り)ということになる。最初は初めてのマイカー、ホンダ N-BOX君にエキサイトしていたため毎回律義に車で移動していたが、人間とは慣れる生き物で、つまりかんたんに言うと面倒になってきたのだ。夜遅くの運転も多いし。
そこで、「電車」という選択肢が出てくる。電車は良い。本当に良い。移動中に本を読むことも、音楽を聴きながら居眠りをすることも、(あんまりしないが)仕事をすることもできる。これが私にとっての贅沢なのだ。
先に書いたように小鹿野町には電車の駅がないので、小鹿野から交通機関で東京へ移動するときは、西武秩父駅か横瀬駅まで車で行って電車に乗る。駐車料金が1日1,000円もかからない安いパーキングが多いのも、このスタイルを支える重要な要素である。
衣:なんだかんだで2セットあると便利?

二拠点生活を始めた当初、生活に必要なもののほとんどは都内の拠点に置いてあった。なので、東京から小鹿野へ向かう際には3, 4泊分くらいの衣類をリュックサックに詰めて持っていき、脱いだ服は東京へ持って帰って洗濯していた。ところが私も人並み以上に怠惰な人間であるから、段々とそれが面倒になってくる。「どっちの拠点にも服あった方が便利じゃね?」と思い始めたのだ。
そうして小鹿野の家には服がどんどん増えていき、お気に入りのパンツ・5本指ソックス・エアリズム(肌着)の私的「3種の神器」は、新たに秩父のユニクロ先生によって補充され、二拠点で同数のセットが揃うこととなった。運が良いことに、たまたま洗濯機もいただいた。
こうして私は、「行く準備」と「帰る準備」がほとんどなくなった。移動回数の多い二拠点生活だと、準備は意外とストレスになる。ないに越したことはない。
ただまれに、両拠点におけるパンツ・靴下・肌着の数の均衡が崩れることがある。「なぜ?自分が身に付けている分を考慮しても同数になるはずなのに…」と思っていたが、答えはかんたん「出張」だった。例えば、2泊3日分の出張の準備をして家を出発し、そのままもう一方の拠点に戻ると、その分の衣類が増えるというわけだ。仕事柄、出張の回数が少なくない私は、度々仕事によって「衣類の不均衡」という憂き目に遭うのである。
こうして私は、「行く準備」と「帰る準備」がほとんどなくなった代償に、衣類の均衡を保つという新たなタスクが増えてしまった。良いんだか、悪いんだか。
また、お気に入りの服を着て出かけようとしたときに「あ、あいつはもう一方の拠点にいるんだっけ…」という現象もよく起こる。「なんでキミ(服)がこっちにいるんだ?」という独り言もよく言っている気がする。二拠点になるのは、自分だけではない。服もだ。様々な理由から、移動・失踪・混在が発生する。なんだかんだで2セットあると便利なのかもしれない。
食:買い出しや作り置きは移動後すぐに

1回の滞在は約1週間。移動してきたら、なるべく私はその日か遅くとも翌日には、滞在中に使用する食材の調達を済ませてしまう。理由は2つ。
①滞在中に消化しないと腐らせてしまう
滞在期間の後半で買い出し・料理をすると、数日後にもう一方の拠点に移動することになるので、期間中に食べきれず・使いきれずで腐らせてしまうのだ。私は1人暮らしなのでそもそも消費量が多いわけではないし、これは非常にもったいない。ありがたいことに、ご近所さんからお野菜をいただくこともあるので、尚更無駄にはしたくない。
また、作り置きするときには滞在中に食べきれる、もしくはもう一方の拠点に行って戻ってきた次の滞在でも食べられるほど日持ちするという、メニューや方法を考える。今年は自分の畑でたくさんのジャガイモが採れたため、夏はやたらとポテトサラダを食べていた。ポテサラだけで、5種類くらいのレシピを身に付けた気がする。お陰で居酒屋に行くと、「どんなポテサラを出しているのか」をいつも気にしている。
②小鹿野のスーパーは、東京と比べると閉まるのが早い
これは、小鹿野滞在中の話だ。東京には24時間営業のスーパーも多く、日常生活であまり困ることはないが、小鹿野町の中心部に位置するスーパーマーケットの業務スーパーさんとラコマートさんは、それぞれ19時30分と20時に閉店する。割と遅くまで働くワーカホリック気味な私にとって、この営業時間は死活問題だ。なにせ「仕事がノッてきたぜ…!」くらいの時間帯である。買い出しを怠り、なおかつ遅くまで仕事をしているとスーパーは閉まり、ディナーは必然的にシーフードヌードルになってしまう。(サッと食べに行けるような飲食店も、同じくらいの時間に閉まる。)
コンビニ弁当やインスタント食品が一概に悪いわけではないが、自然豊かなこの地に来て食べたいかと問われると、私は「NO」だ。滞在中の食糧問題は、着いて早々に解決しておくのがベターだろう。小鹿野はスーパーがあるだけまだラッキーで、ない自治体に拠点を置くのなら、また違う解決方法が必要になる点には注意が必要だ。
住:家は急がず、まずは二段階移住がおすすめ

住居については、「二拠点生活」に限った話ではないのと、「ご縁」と「運」に依存する部分があり、なかなか的確なアドバイスがしづらいというのが正直なところだ。
空き物件は、あるにはある。ただ、空き家バンクなどの物件サイトには、そこまでの数は掲載されていない。これには「条件を満たさないため載せられない」、「そもそも家主さんが貸そうと思っていない」、「友人・知人やそのツテで信頼できる人になら貸したいと考えている家主さんが多い」などの理由がある。これは小鹿野町に限らない、広く一般的な傾向だ。あくまで個人の感覚だが、小鹿野町に多いのは「信頼のおける人にこそ貸したい」と考えている家主さんではないだろうか。
そのため、私からは「二段階移住」なるものをおすすめしている。空き家を買うにせよ、賃貸するにせよ、まずは物件サイトにあるアパートなどを借りて住み始めてしまう。住んでいればどんどん現地の方とのつながりも増えてくるし、より生活イメージが湧くため、希望物件の解像度が上がってくる。また「空き家を探している」と繰り返し発言していれば、物件は多いのだから、いずれ家主さんの耳に入ることもある。2つの変数のうち「運」はどうすることもできないが、「ご縁」は能動的に構築していくことが可能なのだ。
ちなみに私はというと、小鹿野に拠点を持ち始める2年ほど前から月1ペースで通っていたこともあり、親身になってくれる地元の「ご縁」があった。いざ、小鹿野に拠点を持とうと思った直後に、町の中心部という立地の良い場所に、素敵な平屋の一軒家を貸して下さるという家主さんが現れた。これは「運」も良かった。定期的に野良ネコの兄弟もやってくる。
もう1つ考えておきたいのは(車移動を検討している方のみにはなるが)、駐車場である。多くの地域では、場所がたくさんあるから駐車場代はかからないことが多い。小鹿野町も同様だ。ただ「二拠点生活」となると、一方の拠点が都会だった場合に駐車場代が跳ね上がってしまう。私の立川の自宅では、月に1.5万円かかっている。これでも都内ならかなり安い方だ。
さらに、私にとっては新たな固定費として自動車保険の保険料も上乗せされた。すでに都内在住で車を持っている方なら、新たに発生する費用はガソリン代や高速代だけで済むが、「これからマイカーを手に入れる」という方は、車代のみならず、そういった固定費がかかるという点には注意していただきたい。

以上、一部ではあるが二拠点生活を1年間体験してみて得た知見である。冒頭申し上げたように、様々なスタイルの「二拠点生活」があるので、組み合わせ方によって必要な知識も変わってくるだろう。
さて、ここからがようやく本題だ。
2026年の年明け早々、1月10日(土)に「二拠点生活セミナー」を行うこととなった。そこでは私だけではない、「半農」を掲げ様々なことに取り組む経営者や、普段は東京で働き週末だけ実家のある小鹿野に帰省する方、小鹿野に生活の拠点を置きながら仕事で東京方面へ出勤する方など、多種多様なライフスタイルの実践者の生の声を聞くことができる。きっと参考になる情報に出会えるはずだ。この駄文を読んでいただいたついでに、ぜひお申込みボタンをポチっとしてみてはいかがだろうか。
日時
2026年1月10日(土)13:30~16:00(受付13:00~)
場所
ふるさと回帰支援センター・東京 セミナールーム
〒100-0006 東京都千代田区有楽町2-10-1
東京交通会館8階セミナールーム「B」
オンライン(ZOOM)でもご参加いただけます。
プログラム
13:30~13:35 オープニング
13:35~14:15 第1部 講演会「二拠点×農ある暮らし、小鹿野で二拠点する理由」
14:15~14:20 休憩
14:20~15:20 第2部 トークセッション「小鹿野町で実践する二拠点のカタチ」
15:20~15:25 クロージング
参加費:無料
※1/5(月)締め切り予定
※先着順

