秩父郡小鹿野町(おがのまち)で、冬の定番となりつつある「黄金のかぼす祭」。一般的な緑色のかぼすが完熟し、鮮やかな黄色に染まった「黄金かぼす」を、町内外のさまざまな飲食店などで楽しむことができるグルメイベントである。3店舗での提供から始まったこのイベントも、今年は秩父市吉田からの参加も含め、全22店舗が参加する大きなイベントへと成長した。
かつては規格外品として、その多くが活用されずに捨てられていた黄金かぼすは、一体どのようにして、町全体を巻き込むイベントの主役へと成長したのか。秩父黄金かぼす実行委員会の委員長・太田誠さんに、その舞台裏についてお話をうかがった。
これまで表に出てこなかった「規格外」が名物に?黄金かぼす祭、誕生の舞台裏
ー「黄金のかぼす祭」について、企画は何年前にどういうきっかけで始まったのですか?
太田さん:埼玉県の補助金を活用して「黄金かぼすを使った地域活性化事業」を、小鹿野町役場の職員さんから提案したのが2018年です。そこからコンサルティング会社さんにも入っていただき、企画を練って現在のグルメイベントができあがりました。
その前から、いわゆる「黄金かぼす」と呼ばれる黄色くなったかぼすは、規格外品として扱われて出荷することができませんでした。直売所に並べても「かぼすといえば緑」というイメージが強いので、「黄色くて、かぼすと書いてあるけど何だろう」と思われてしまい、なかなか売れない状態だったんです。
でも、実際にかぼす果汁を飲んでみるとうまいんですよ。実際に、生産者さんたちは自分たちで黄色くなったかぼすを楽しんでいたそうです。それが1円の価値もないのは、もったいないなって思って。そんな想いから取り組みが始まりました。コンサルタント会社も入り、「グルメイベントをやろう」という話が進んでいきます。最初は試験的な開催からスタートして、小鹿野町内からは春雷さん、須崎旅館さん、元六さんの三店舗が参加してくださいました。
ー企画が始まる以前のかぼすはどうしていたのでしょうか?
太田さん:もともと「ゴールデンカボス」という構想自体はあって、生産者さんたちは独自に黄色いかぼすを販売できないか、さまざまな挑戦をしていました。ですが、生産者さんだけで形にすることはなかなか難しく、結構な量が処分されていたそうです。今は、食べられるものはもちろん、食品として使えるレベルのものはちゃんと値がついて売れているんじゃないですかね。黄金かぼすの企画を始めたことで、商品として活かせるようになりました。
生産者さんだけではなく、地域の飲食店にも入ってもらって、行政にも事務局になってもらって(当時)、自分みたいな元地域おこし協力隊も関わって、いろんな人が入り、わちゃわちゃと「黄金のかぼす祭」をやったのがよかったんだと思います。
ー「黄金のかぼす祭」は、スタンプラリーの企画が魅力的です。これは、どのようにして始まったのですか?
太田さん:やっぱり、「なるべくたくさんのお店を回ってもらえるように」という目的が大きいですね。今はシールを3つ集めれば抽選に応募できるというルールですが、3つとも飲食店を回って食事するのは大変かもしれない。であれば、例えば元六さんとかでご飯を食べて、八宮松雪堂さんで小鹿野こいしカボス味をお土産として買う。これで2つ。「あとシール1つ」ってなれば、より積極的に参加してくれるんじゃないかと思って。あと、なんだかんだ、みんなスタンプラリーとか好きですよね?子どもも楽しむことができますし、良い販売促進になるかなと考えたんです。
飲み物から隠し味まで、完熟だからこその「うま酸っぱさ」

ー祭りに参加している飲食店さんとは別に、家庭でのかぼすの消費の仕方やおすすめレシピはありますか?
太田さん:大量消費なら、お酒に生搾りで入れるのが一番手軽ですね。飲み物に入れる使い方がかんたんです。健康のために、かぼすとハチミツを混ぜて毎日飲んでいる方もいます。料理に、薄切りにして並べるのもおいしいです。私は、ポン酢を製品として提供してもいますし。
ーそもそもなんですが…黄金かぼすってどんな味なんですか?
太田さん:かぼすは本来、香酸柑橘(こうさんかんきつ)という、すだち、柚子、レモンといった酸味が強くて生で食べるよりも果汁の酸味や爽やかな皮の香りを楽しむための柑橘類の仲間です。しかし、完熟することで甘みが増すので、酸っぱいのが苦手でない方なら、そのまま食べることもできますよ。黄金かぼすは無農薬で、皮ごと使っている飲食店さんも多いです。いろんな柑橘系の完熟したものを食べ比べているわけではないのですが、黄金かぼすには“うま酸っぱいみかん”のような甘みがありますね。
ー太田さんは、かぼすを使った「ヤッホーマウンテン」というエナジードリンクも製造・販売されていますね。
太田さん:かぼすを使って飲料が作れないかと思って、最初はコーラとかいろいろ試作していたんですが、最終的に出てきたアイディアがエナジードリンクだったんです。飲んだ人はもちろん、「地域を元気にするエナジードリンク」というコンセプトも、小鹿野町に良い具合にハマるかなと。原材料から、加工・販売までなるべく小鹿野町内で完結させることで、経済を回していくことも目指しました。今は少しずつ、認知が拡大してきたかなと感じています。
ー最後に、太田さんの考える「かぼす祭り」の今後の展望について教えてください。
太田さん:「かぼす祭り」は今回で7回目、試験的な初年度を入れると8回目になりました。「イベントは10回くらいやると定着してくる」とよく言いますから、まずは10回を目標として、町内外での定着度・定番度を高めていきたいです。地域の定番になれば、「なくなってほしくない」と思われる存在になる。そして、町の人が自然に「かぼす食べに来なよ」って言えるようになったらいいですよね。町の誇りというか、「うちの地元はこれだよ」って言えるものに成長する、それが理想です。
ーありがとうございました。
今回は「黄金のかぼす祭り」で、実際にかぼすを提供している飲食店にもお話を聞くことができた。インタビューに答えてくださったのは、小鹿野町を秩父市から群馬県側へと貫く国道299号線沿いにある、地元民に親しまれるそば・うどん屋の「元六(げんろく)」で働く、久津田さんだ。お店として「黄金のかぼす祭り」に参加したきっかけや、かぼすを使ったメニュー開発について、幅広くお話をうかがった。
料理への探究心が生む、酸味を「旨み」に変える元六の挑戦

―元六さんは「黄金のかぼす祭」企画が始まったころから現在に至るまで、協力・参加されています。お店としてどのように取り組まれてきましたか?
久津田さん:まず、「かぼす祭」の「廃棄されるものを有効活用しよう」というコンセプトに賛同したので、協力することにしました。基本、かぼすって酸っぱいのが特徴ですから、果汁しか使わないことも多く、お店で提供するにあたっては何とか工夫して、消費できるような形にできないかと考えました。酸味のあるものって、火を加えると甘くなることがあるので、煮たり、揚げたりしてみたらどうだろう、とか。しゃぶしゃぶと合わせてみたこともありましたけど、火の加減や時間の調節が難しかったですね。
―太田さんからも、かぼすは「みかんよりは酸っぱい」と聞きました。
久津田さん:黄金かぼすの「黄金」というのは、完熟して黄色になっているからそう呼ぶわけですが…いくらか酸っぱさが和らいでいるとはいえ、酸味の感じ方は人それぞれです。なので、今はメニューに「酸味センサー」を載せて、メーターで酸っぱさを表示するようにしています。カレー屋さんの辛さレベルみたいで、分かりやすいって評判です(笑)。

―元六さんの考える、かぼすと相性の良い料理は何ですか?
久津田さん:焼き魚にかけたり、お酒に入れたりする一般的な使い方はもちろん、やっぱりお肉とは相性が良いと思います。かぼすの酸っぱさで脂分が緩和されるんですよ。何のお肉でも基本的には合うと思いますが、特に脂身の多い肉、豚バラ肉とかは合わせると非常に美味しいです。

―今回提供されている「GKT-ゴールデンカボス天ぷら」ですが、丸ごと天ぷらにされたかぼすはインパクト大ですね。どのようなメニューなのですか?
久津田さん:まず、火を通して甘みを出したいと考えた時に、フライヤーで天ぷらにしてみたらどうかなと。かぼすを厚めの半月切りにして、皮ごと揚げてみました。かぼすは油との相性が良いので、うまく酸味や苦みも緩和されてなかなか良い感じになりました。つゆはカツオ出汁で、鶏つみれを合わせています。そばとうどん、お好きなほうで召し上がっていただけます。
―「黄金のかぼす祭」はさらに盛り上がっていきそうですが、今後の展望はありますか?
久津田さん:実は、作ってみたい新しいかぼすメニューが結構あるんです。例えば、今考えているのは「かぼすの肉巻き」。まかないとして作って食べてみたら、とても美味しかったんです。ほかのメニューでも、従業員へのまかないがもとになっているものが結構あるんですよ。そうやって、少しずつ試してみています。毎年ひとつずつくらいメニューを増やしていけたらなと思っています。
練馬から小鹿野へ、繋がる縁と味

―ところで、久津田さんは「元六の嫁ちゃん」という愛称で知られていらっしゃるとか。
嫁ちゃん:私も移住者なので、何かこう、気軽に親しんでもらえる呼び名はないかと思って。「嫁ちゃん」は分かりやすくていいかなと思い、自分で言い始めました。今ではお客さんも友だちもみんなが「嫁ちゃん」って呼んでくれています。
―小鹿野町に嫁ぐことになったきっかけを教えてください。
嫁ちゃん:私の生まれ育ちは東京の練馬なんですけど、おばあちゃんの家が小鹿野だったから、子どものころは、休みの時期になるとよく小鹿野町で過ごしていました。当時、おばあちゃんが働いていたのが、この元六だったんです。で、私も大人になってある時、突然おばあちゃんから「元六に嫁がない?」って(笑)。
それから夫と出会って、あれよあれよという間に縁談が進みました。元々、飲食店で働いた経験もありましたし、調理師免許も持っていたので、自然とここで働くことになり…今は毎日、忙しく夫と二人で厨房を回しています。
―まさに運命的だったわけですね。小鹿野町内で元六さんといえば子どもから大人まで親しみのあるお店ですし、週末になれば町外からの県外ナンバーの車やバイクがたくさん停まっている印象です。
嫁ちゃん:そうですね。平日の昼間や夜なんかは地元の方がよく来てくださいますし、土日はやっぱり県外からのお客さんも多いです。SNSにも力を入れていて、クーポンや新メニューを発信しているので、それを見て来てくださる方も多いです。リピーターになってくださる方もたくさんいらっしゃいます。
―最後に、元六の「嫁ちゃん」として一言お願いします。
嫁ちゃん:やっぱり、お客さんには美味しいものを食べてもらいたい。だから例えば、「ちょっと小さめに切ってくれ」とか、少しばかり手を加えることは出来る限りやってあげたいと思っちゃうんです。もちろん、すごく忙しい時間帯は無理なんだけど、「内緒だよ」って(笑)。
手間の掛かる、うちの店でしか食べられないようなものは美味しく食べてもらいたいし、あとは家に帰っても真似して作れるような、そんなメニューも充実させてみたいなと思っています。
取材・文:彦久保康恵、豊田麻理奈
編集:芦田央
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