地方に暮らすということは、自然とご近所づきあいが生まれるもの。小鹿野町では、盆地であるという地理的特徴や人口密度、お祭り好きの町民気質など、色んな条件が相まって人間関係は濃いものになる傾向があります。そんな顔が見える距離感だからこそ、優しさゆえの「おせっかい」を焼く人が多いのも、町の大きな特徴です。
今回は、小鹿野町で生まれ育ち、町の歴史も変化も知る同期5人組が集結。玄関先に野菜が届く謎の現象から、一度町を離れたからこそ見えたリアルな葛藤、そして移住者をあたたかく迎える本音まで、たっぷり語り合っていただきました。
写真左から:
明治四十年創業 秩父で百年続くおもてなし
須﨑旅館 女将 須崎真紀子さん
マッサージ・新聞記者・イベント企画などマルチに活動
なごみ整体院 鎌田昌子さん
おいしい洋食が食べられる、昭和50年代から続く老舗喫茶店
喫茶ひろば マスター 武川幸広さん
懐かしさと新しさ、和と洋が共存する郷土銘菓「小鹿野こいし」
八宮松雪堂 八宮悟さん、八宮綾子さん
「おせっかい」の循環が作る、見守られている安心感
みなさんの「おせっかい」エピソードを教えてください。
八宮悟さん:日常的に、おせっかいしてるかもしれないね。小鹿野の挨拶文化を残したくて、子どもたちには積極的に「いい塩梅です!」って声をかけるようにしています。おとなしい子は最初こそ恥ずかしがっているけど、三回も声をかけると返してくれるようになるし、元気な子は「おーい、オガノコイシのおじさん!」って、向こうから声をかけてくれるんですよ。
須﨑さん:私も仕事柄、旅館に来ているお客さんにはついついお世話を焼いちゃうかも。「今の時期なら、何がおいしいですよ、ここに行ったらいいですよ」とか。ホタルのおすすめスポットを教えたお客さんなんかは、小鹿野町をとても気に入っていただいて、一年前から予約を取って三年連続でホタルの季節に来てくださっている方もいます。素直にうれしくなりますよね。
八宮綾子さん:それはありますね。私も、お店が休みの日でも、店の前でウロウロして覗いている人とかを見かけると「あのー、もしかしてオガノコイシですか? 二十個ぐらいならありますけど…」ってつい話しかけちゃいます。それで買ってくださるみたいな、そういうコミュニケーションはよくありますよ。
武川さん:小鹿野町だと、お店の人が知り合いだったり、知り合いの知り合いだったりすることが多いから、気軽にイレギュラーなことも頼みやすいんだよね。お店側の人も、そういった頼みごとに慣れていますし。「ごめん、閉店後なんだけどいい?」とか、「休みの日だけど、なんとかならないかな?」とかね。もちろん、お互いの信頼関係があってこそですけど。

逆にみなさんが「おせっかい」してもらうことはありますか?
八宮悟さん:あと、家の前に野菜が届けられてることがよくあるんですよ。しかも、誰が届けてくれたのかが分からないし、お礼も言えないから、我が家では「笠地蔵システム」と呼んでいるんですけどね。後から「あの時のあれは、あなただったんですね」って分かることもあるし、そのまま分からないこともあります。
武川さん:アマゾンより先に始めた、小鹿野の置き配です(笑)。
鎌田さん:あと、用事で誰かの家に寄った時に「寄ってげいな」ってなって、少しだけお邪魔するはずが、つぎつぎとご馳走が出てきちゃうこともありますよね。「今ちょうど作ったのよ」ってお箸とお皿がお茶とセットで出てきたり、そろそろ行こうかなってタイミングで「リンゴ剥くね」ってなったりというのは、小鹿野あるあるですね。
武川さん:移住した人から聞いたんですけど「小鹿野の人は、人の車のナンバーをよく覚えてる」って、これ自分もすごい分かりますね。仲良い友人に「この間すれ違ったの無視したじゃん」って言ってくるやつがいて、さすがに私はそこまでは見てないんですけど。でも、運転中に知り合いのお店の前を通るときとか、友人が犬の散歩とかしているのを見かけたときとか、ちょっとスピード落として見ちゃうかも。
鎌田さん:それ分かる。お店がいつもやってる時間にシャッターが閉まっていると、「何かあったのかな?」とか、勝手に心配しちゃうんですよね。
小鹿野のみなさんは、周囲のことをよく見られていますよね。
須﨑さん:うちの旅館では「秩父銘仙」という着物の着付けが体験できるんですけど、お客さんが銘仙を着て歩いてると、町の人によく声をかけてもらえるそうなんです。お客さんも、着物を着て古い街並みを歩いて気持ちが上がっているから、結構喜んでいただけるんですよ。小鹿野の町民性には助けてもらっていますね。
八宮綾子さん:確かに、うちのお店にも着物を着ている方が来るので「まあ、素敵!」ってつい言っちゃいます。
横のつながりで面白くなってくる「小鹿野ライフ」

一度、拠点を町外に移された方もいるんですね。
鎌田さん:最初は、「小鹿野には何もない、東京の方がたくさんある」っていう漠然としたイメージがあったんです。当時は、今みたいに歌舞伎やお祭りなどが盛んでなかった気もします。若い頃は、特別身近に感じなかっただけかもしれませんけどね。あとはやっぱり人間関係ですね、知り合いばかりなことに閉塞感を感じてしまったんです。
武川さん:自分も同じ。町外に出て、親から「一般企業に勤めた方が良い」って言われてたんですけど、大学まで出してもらった恩もあったから、この実家の喫茶店を継ごうと思って戻ってきました。とはいえ最初は、前に住んでた千葉に友達がたくさんいたから、店が休みの月火になると遊びに行って、向こうに泊まって帰ってくるという生活でした。それがこっちの消防団とか青年部といったコミュニティに入ったことで、友だち・先輩・後輩の横のつながりができてきたんです。みんなが喫茶店にも来てくれるようになって、いつしかこっちがメインになりました。
鎌田さん:今は、いろんなコミュニティができてきたり、お祭りも賑やかになったりして、楽しいイベントが増えてきたよね。

確かに多くのイベントを、町民自らが盛り上げようとしている印象が強いです。
八宮悟さん:町外の人から見ると「小鹿野、頑張ってるな」って思うかもしれないけど、これが当たり前なんですよ。続けてくというか、生活習慣になっている。もちろん楽しんでいる人が多いけど、付き合いで出てる人とかもいるからね。出なきゃいけないっていう、責任感で動いている部分はあるかもしれない。
武川さん:そう、良く言うと責任感だけど、なかなか断りづらいという側面もありますよね。イベントごとがなければ、確かに身体的・精神的にも楽でいいんだけども、やっぱりこれまで支えてきてくれた世代に申し訳が立たないなっていうのがありますね。子供の頃は手放しで楽しかったですけど、大人になって自分たちが運営側としてやるようになると、楽しいだけでは成り立たない。でも、子供たちがうんと喜んでくれるから充実感がありますね。
お祭りは人との繋がりを生むには良い場で、移住した人もきっかけにしやすいですよね。
須﨑さん:とはいえ、移住してきた方の中には、お祭りの魅力にすっかりハマる人もいれば、一方で「自然豊かな環境で静かにマイペースに過ごしたい」という方もいます。小鹿野町に興味を持ってくださった方には、移住に踏み切る前に、お祭りや地域のイベントなど町のコミュニティの雰囲気を知っていただいて、移住後もお互いに心地良い関係が築けるのが一番ですね。
鎌田さん:お祭りに参加する人が少なくなっちゃって、困るのは自分たちですからね。今は、町民と移住者の二項に分けるというより、外の方も受け入れて、いい意味で「みんなで一緒にやろう」っていう空気感がでてきた気がします。
八宮綾子さん:地元の人でも、参加の仕方は人それぞれですもんね。お祭りには「わっしょい!」って盛り上がる側だけでなく、裏方というか、世話係の「行事」という役回りもあります。関わり方を選んで、自分の理想とする「地域との距離感」に合ったエリアや住まいを選ぶのも、快適に暮らしていく大切なポイントだと思いますよ。
応援したい、見守りたい、つなぎたい。町民それぞれの「おせっかい」

ネイティブ町民として、移住してきた方にどんな「おせっかい」をしたいですか?
須﨑さん:うちの旅館に宿泊いただいた方が、その後に移住されたとか、そういうケースも実は結構多いんです。そういう方は応援したくなると言いますか。移住してきてエゴマやかぼすの製品を作ったり、蜂蜜酒やジンを作ったり、今でも頑張っている方がたくさんいるので「自分なりにおせっかいしたいな」という風にちょっと思うんですよね。
八宮綾子さん:私は積極的に関わるというよりは、もう「見守り」の姿勢です。というのも、みなさん等しくご近所さんだと思っているからなんですよ。移住してきた人も、ここで生まれ育った人も、みんなご近所さん。なので、誰に対しても同じ態度で接するようにしてきましたし、これからもそうしていこうと思っています。
鎌田さん:私は、人と人とをつないで、いい関係性を築いていきたいです。自分は町外での生活も経験しましたし、生まれ育った町内のことも少しは知っているつもりです。移住してきた人と地元にいる人たちの間に入り、自分も一緒に学びながら、みんなが気持ちよく生活できるようにしたいです。町全体がちょこっとでも良くなっていくように調整役になれたらと思っています。
町民と移住者の二項に分けてしまうのでなく、等しく接してもらえるというのはとてもありがたいですね。
鎌田さん:人がいなくなっちゃったら困るもんね(笑)。
八宮綾子さん:小鹿野町は基本的に、全部町内で済むんだよね。東京に行くのが少し遠いってだけで、スーパーとか病院とかごはん屋さんとか、こじんまりしてるけど大体揃ってて、本当にいい塩梅です。
ありがとうございました。

【関連リンク】
須﨑旅館
https://www.suzaki-ryokan.com/
なごみ整体院
https://nagomi-web.net/
喫茶ひろば
https://ogano-machi.jp/spot/1186/
八宮松雪堂
https://oganokoishi.jp/

